「コラム」カテゴリーアーカイブ

受付にご注目!

まだまだジメジメした日が続きますね。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

このたび、当院受付の飛沫防止ビニールシートがかわいくデコレーションされました。

当ビル3階に開設された就労継続支援事業B型事業所「アートスタジオこくら」で、デザイン制作していただいたものです。
殺風景なビニールやアクリルの仕切りがこんなに賑やかで楽しくなるものなのですね。

アートは生活に彩りを添えてくれます。
アートスタジオこくらはこのような依頼を引き受けてくれるようです。
みなさまもよろしかったら、お店や会社をこんな風に楽しく飾りませんか。

アートスタジオこくら
〒802-0064
北九州市小倉北区片野3丁目4-18はたけやまビル3F
https://artstudio-kokura.com/

漢方の考え方を生かす

みなさんは、漢方薬にはどんな印象を持っていますか?

副作用が少ない、でも味がまずい、でも飲みやすいのもある、など様々でしょうが、「体に優しい」というイメージは共通してお持ちではないでしょうか。

漢方薬は、中国であまたの経験を通して形作られた医学体系を江戸時代の日本で、日本人が使いやすいように取り入れたものが現在のエキス剤の元となっています。

今日は、日々の健康に活かせそうな漢方の考え方についてお話ししたいと思います。

 

①体質 虚と実

体質が丈夫でどちらかといえばエネルギーの高い人の体質を「実」、その反対に、疲れやすかったり、エネルギー切れしやすい人の体質を「虚」といいます。どちらが良いとか悪いということはありません。

「実」の人は暑がりだったり、体が火照ったり、イライラしたりといった、どちらかというと「過剰な」症状があるため、このとき使う漢方薬は「多すぎるものを削ぐ」という考え方です。これを「瀉」(しゃ)といいます。

それに対して、「虚」の人は、体が冷えたり、消化不良を起こして下痢をしやすかったり、疲れやすいなど、「エネルギー不足」による症状が多く見られます。これに対しては、「足りないものを補う」、「補」(ほ)の作用がある漢方薬を選びます。

「瀉」の薬は新薬で数多く見られます。痛み止め、熱冷まし、ある種の向精神薬、抗生物質もこれと同じ考え方で、そぎ取り、悪いものをやっつける「攻撃的な」薬です。

一方、「補」の薬は漢方特有のものなのです。

②病気の強さ 陰と陽

病気の出かたも人によって様々です。同じ風邪を引くにしても、若い丈夫な方は高熱が出て3日もすると元気になります。そのうち咳が出てきます。さらに長引くと、胃腸が弱り、手足も冷たいまま体が温まらない、しっくりしない状態となることがあります。そのように、同じ風邪でも高熱が出たりして強い症状が出る病状を「陽」、病み疲れして体が冷えたり、食事が進まないなどの病状を「陰」と言います。あくまでざっくりですが。

そんなわけで、同じ風邪でも症状の出方によって、漢方薬は「瀉」と「補」使い分けをするのです。とてもきめ細やかですね。

❇︎

私たちの心と体は毎日同じ状態ではありませんから、病気ではなくてもやや元気のある日、やや元気の出ない日もあるものです。

イライラするときはカラオケやバッティングセンターへ行って発散したり、元気が出ないときは、ホッコリする映画を見たり、花を見たり、そういうことってありますよね。

自分を虚実陰陽の視点ででながめてみる。

「今日はどうかな?」と自分に尋ねてみることから始めてみませんか。

※写真は日々のウオーキングを欠かさない、院長の愛猫「金時」

お酒について

みなさん、お酒はお好きですか?

日本人は飲酒に寛容な民族と言われてきましたが、昨今では一気飲みによる急性アルコール中毒の多発、飲酒運転での悲惨な死亡事故などを受けて、人々が飲酒に向ける目は昔とは変わってきたようです。

精神医療の世界でもアルコール問題は大きなテーマですが、今日はお酒の治療への影響についてお話ししたいと思います。

①飲酒はうつ病を悪化させる

 うつ病治療中の方、お酒はうつ病そのものを悪化させ、治りにくくします。

 アルコールは抗うつ剤の効き目を打ち消すという研究結果もあります。

 また多量に飲酒する方は食事を摂らなかったり、偏ったり、アルコール代謝でビタミンを浪費します。そもそも多量の飲酒がうつ病様症状を引き起こしていることが多々あります。

 うつ病症状で入院した方が、お酒をやめただけで、症状がキレイに治るケースも珍しくありません。

 

②飲酒はパニック発作を起こりやすくする

 パニック障害という病気があります。不安そのものや不安が動悸や息苦しさという身体症状に姿を変えて、発作的に起こる病気です。あまりの苦しさと恐怖に死ぬのではないかと感じるほどの発作だと言います。

 アルコールは緊張をほぐし、不安感も和らげるように感じます。しかし、このパニック障害、また不安そのものも、残念ながら飲酒でスイッチが入りやすくなり、悪化するのです。

 

③アルコールは認知症のリスクを高める

 アルコールそのものの害、から酒(つまみを食べずに酒だけを飲む)による栄養障害などから、物忘れが起こりやすくなります。アルコール依存症患者の多くで脳の萎縮が起こることは知られています。断酒によって状態が改善することもあります。また、間接的に高血圧や動脈硬化による脳血管障害などがおこりやすくなるため、脳血管性障害による認知症の危険も高まります。

 

④アルコール問題は自殺のリスクを高める

 日本の自殺をした人の21%にアルコール問題が認められるという事実があります。海外ではアルコール依存は自殺リスクを60~120倍に高めるという報告もあります。考えてみれば、アルコール依存は不眠やうつ病だけでなく、結果として離婚、失業、体の病気、逮捕を引き起こします。さらに、酔っ払った状態は「飲んだ勢い」という衝動の高まり、周りが見えなくなるという恐ろしさがあります。

 

⑤適正な飲酒とは

 厚生労働省は適正飲酒として、1日純アルコール換算で20g(ビール500cc、日本酒180cc25度の焼酎110cc、ワイン180cc)と推奨しています。しかしながら、最近の英国の研究ではそうした適正飲酒であっても脳の海馬(記憶を司る中枢)は萎縮してゆくリスクがあると発表しました。つまり、少量でも飲酒習慣があれば、認知障害のリスクはあると言えます。

 

 

残念なことに、健康にいい飲酒というのはあり得ないというのが現実です。

現在、アルコールの飲み方の危険度を調べるテストAUDITが汎用されています。以下のリンクからご自身もチェックしてみてください。

 

https://gen-shu.jp/risks-associated-with-alcohol/audit/

なお結果の正しい評価には、専門家の判断が必要です。

アルコール依存症治療は専門の治療病院がありますが、当院でもご相談にのります。

社会的引きこもりについて

3月29日に内閣府の発表がありました。

中高年の引きこもり数が61万3000人。4分3は男性。理由は『人間関係がうまくいかなかった』「病気」などに加えて最も多かったのが『退職』」

このニュースはみなさんの記憶に新しいと思います。

その実態や統計的なことや深刻な問題は、ニュースや内閣府にお任せし、今日は精神科医の目に映っているもの、出口のカギになりそうなことなどお話ししましょう。

一口に「ひきこもり」といっても、それは病気の診断名ではなく、問題とされる行動・症状です。

その背景には、社交不安障害、うつ病、自閉症スペクトラム症(発達障害)、統合失調症など様々な精神科疾患や発達特性が基礎疾患であることも少なくありません。

そういう場合は、そうした疾患の治療、支援がひきこもりの解消への第一歩です。

反対に特別な精神疾患がないまま引きこもった期間が長くなるにつれ、なんとなくやめられず続いてしまうというものもあります。最近のニュースで、ひきこもりをしている女性のなんと4分の1が主婦で、「ひきこもり女子会」というものが開催されるようになった聞きました。確かに、専業主婦は社会と接触が少なくなることも少なくありません。

では、ひきこもりが長引いて、やめられない場合、どうしたらいいのでしょう?

これが特効薬という方法は今の所ありません。

「ひきこもり引き出し業者」という強引に外に引きずり出す業者もいたようですが、半ば暴力に訴えたこうした手法は副作用も強く、医療者としては薦められるものではありません。また、社会的引きこもりは、医療の中でだけ解決できるものではないと考えています。

ではどうしたらいいのでしょう?

 

「ひきこもり女子会」が、参加者の居場所と安心や仲間を提供したように、どういう形でか対人関係を持つことが、そのカギであるようです。

この病院の「院長のコラム」で201664日に掲載したコラムで書いてある、「人薬(ひとぐすり)」ということをご参照ください。人は人と触れることで、自分を大切にできるようになり、失敗から立ち直ったり、目標を持ち、意欲が生まれるものなのです。

http://kcomnet-d.heteml.jp/user/hatakeyama-cl/column/

もちろん、引きこもっていた方が急に何かの集まりに出てうちとけたり、楽しめるようになるものではありません。そうした方の一つのステップとして、医療福祉の枠の中では「訪問看護」、「生活介護(デイケアのような活動)」、「就労支援(仕事へつくための訓練)」、それ以外にもNPOなどが主催する社会へ出ていくための支援がいくつもあります。

家族の対応法をカウンセリングや講演会などで学ぶことで、間接的な解決策を見出すこともありましょう。

さて。当事者である方にとって、まだまだその一歩が難しく、「今日、部屋でできることはないか?」と言われたら、私は精神医学の先達である西園昌久先生が講演で別の疾患の養生法としてお話になられた、以下のことはプラスになるのではないかと考えます。

一部抜粋・改変して掲載します。

1)家にいても歌を歌いましょう。本の音読やお経を唱えるのもいいでしょう

2)身なりをおしゃれにしましょう(もちろんお財布に無理のない範囲。部屋着やボサボサの髪ではなく、外出に困らない身なりをしましょう)

3)元気に歩きましょう(歩ける時間帯で結構です。顔を上げて胸を張りましょう)

4)人と挨拶をしましょう(コンビニ店員、家族、同じマンションの人など。できれば相手の顔を見て、笑顔で)

5)模擬旅行計画を立てましょう(地図を見て、行きたいところをさがし、時刻表を調べて、観光の予定を立て、旅行したつもりになってみましょう)

やれそうなことから、小さなことから、タネを蒔きませんか。

栄養について②ー「鉄」って大事

今日は鉄の話をします。

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鉄分が体になくてはならないものということは知らない人はいないと思います。

鉄分といえば、

・不足すると貧血になる

・ほうれん草やレバーに多く含まれる

ということは、みなさんご存知ですね。

 鉄の働き

鉄は人体にとってとても重要な物質です。

以下のような働きがあります。

 のあとに欠乏すると起こってくる問題)

① 赤血球のヘモグロビンの材料

  足りないと貧血になります。ふらつき、元気が出ない、動けないなど

② 何種類かの酵素(代謝を進めるタンパク質)に含まれている

  寒がり、薬の代謝不良で副作用が出やすい、シミができやすい、むくみと疲れやすさなど

③ コラーゲン合成に必要

  アザができやすくなる

④ 免疫に不可欠、細菌を死滅させるのに必要

⑤ セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの脳内の合成に必要

  不安、イライラが起こりやすい。抗うつ剤服用中の方は、鉄が足りないと十分な効果が得られません

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おわかりですね。鉄がないと貧血だけではなく、様々な問題が体に起こります。鉄は体と心の健康に不可欠なばかりか、病気の治療も鉄不足では進みません。

なんとなく爪がかけやすい、髪の毛がツヤがない、めまい、疲れやすい、氷をバリバリ食べたくなるなどの症状が鉄不足の兆候だったりするのです。

 十分な鉄を摂取しましょう

食品中の鉄にはヘム鉄(タンパク質と結びついた鉄)と非ヘム鉄があります。

① ヘム鉄

 赤身肉、レバー、魚、貝類に含まれます。サプリメントもあります。

 吸収率は10~20%

② 非ヘム鉄

 ほうれん草、ひじき、大豆などに含まれます。

 吸収率は5%前後

明らかに鉄分は肉類の方が吸収されるのです。これは貧血の時に病院で処方される鉄剤も同じです。鉄剤は非ヘム鉄ですから、吸収率は低く、お茶に含まれるタンニンや食物繊維でさらに下がります。一方でビタミンCなどで吸収が良くなります。

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肉の摂取量の多い西欧人と異なり、日本人の特に女性は、普通の食生活をしていても、慢性的な鉄不足に陥りやすいのです。

当クリニックは分子栄養整合医学の立場から、鉄分不足についてもご相談を受けています。

サプリメントについても良質で信頼のおけるMSS社のものを取り扱っています。

子どもの自傷について

最近の報告では「リスカ」といわれるリストカットといわれる自傷は中高生の約1割に経験があるといわれています。

これは自傷と自殺とは性質が違いますが、自殺予防の観点から慎重にあつかうべきものであると,国立精神神経医療研究センターの松本俊彦先生は以下のように強調しています。

 

よくこういう行為を「誰かの気を惹くため、関心を引くための人騒がせな行為。アピール的な行動」と見る向きもあります。しかし,ある調査によるこの行為は人目に触れないところで行われていて、大人が気付いているのはごく一部だといいます。つまりアピール的な自傷はまれなものなのです。自傷行為は,身体に痛みを加える事で心の痛みを鎮める、孤独な対処法である事が多いようです。

 

 

自傷という対処法は当事者にとって、簡便で即効性がありますが、それを続けていいはずはありません。こうした自傷には2つの大きな問題があります。

 

 

①自傷で心の痛みを和らげたとしても一時しのぎに過ぎず、本当の問題や悩みへの建設的な解決が後回しになり、かえって深刻化する恐れがあること。

 

②自傷行為は繰り返されるうちに、麻薬のように耐性がつきやすい。落ち着こうとして前よりもエスカレートしやすい。「切っても辛いが、切らなきゃなお辛い」という事態に陥りやすい。

 

 

つまり,自傷しても問題は解決せずに事態は過酷になってゆき、自傷もエスカレートして徐々に「いなくなりたい」という考えに至る危険をはらんでいるのです。つまり,自傷行為とは、今日をどうにか生き延びる為に繰り返されながら、逆に出口のない袋小路に追いつめられるものなのです。

 

こうした自傷行為をしている子供たちを、周りの大人はどう援助したらいいのでしょう。

①まず気付いてあげること。そこで叱ったり、「自分を大切に」と正論を伝えるたり、「二度としない約束」をする事は役に立たない。本人が傷を見せてくれたら、「よく打ち明けてくれたね」とねぎらい、何があったか、どうして自傷をしたくなるのか話を聞いて向き合ってあげよう。

 

②専門家に相談する事を手伝おう。スクールカウンセラー、病院、クリニックなどへいってみるかと専門家へつないであげよう。相談した先が今ひとつのときは、「じゃあ別のところへ行ってみるか」とつなぎ直しをしてゆく。

 

③親やパートナー等は本人たちにとって一番大切なもの。しかし家族やパートナーは自傷が繰り返されると、疲れてきたり、いらいらしたりするものである。家族も抱え込まず、専門家や相談機関など多くの人に関わってもらおう。

 

④他の子供に知らせないこと。自傷行為は、同じような苦しさを抱えた子供には驚くほど簡単に伝染する。本人には長袖シャツを着ることを提案していこう。

 

何より自傷を見たときに「よからぬことをしている」ではなく、「なにかあったのではないか」と気にかけて,向き合うことが子供の救いになるのではないでしょうか。

 

※写真は雪の日のクリニックの屋上庭園

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「心の強さ」ーレジリアンス

「あの人は強い」、「彼女は弱い人だ」など、たびたび私たちは人としての強さ弱さを話題にすることがあります。こうした場合は、押しが強いかどうか、打たれ強いかどうか、忍耐強いかどうか、など多彩な人間の側面を漠然と言っているに過ぎません。また押しの弱い,控えめな人が頑固で自分が一度決めたことは押し通す側面があったり,人間というのはいろいろな面があるため,一概に強さ弱さを論じるのは難しいものです。

さて、精神医学における「心の強さ」とはなんでしょう?「心」自体が実態がありませんから、これもいろいろな面から強さが論じられてきました。以前は,病気になりやすさ、ストレスに対してどう反応するのかなどなど、主に病気の側から見た強さ弱さばかり目がいっていたきらいがあります。
近年では「レジリアンス」という考え方が広く浸透しています。これは、わかりやすく言うと「外からのネガティブな影響で起こったゆがみを跳ね返す力」と言われます。言葉を変えれば「嫌なことが起こっても、そのまま折れないで立ち直る力」とでもいいましょうか。

このレジリアンスを高くする要素は多種多様論じられています。例えば、「いい人間関係」,「自分を大事に思う気持ち」、「自分をポジティブに見てくれる人がいる」、「新しいことに好奇心を持って向かってゆく」、「自分を責めすぎない」、「嫌なことを忘れる力」などがレジリアンスを少しづつ高めるのだと言われています。

とはいえ、病気をしたりすれば長い間に,レジリアンスは徐々に低くなり、傷つきやすくなったり、悲観的になりがちです。こうなってくると、薬だけをあれこれ変えてもすぐに楽になるものではありません。私たちはそうした状態を元に戻りやすく,跳ね返していけるような力を身につけるには、やはり対人関係・社会参加が重要だと考えます。そのため、当クリニックのデイケアでは集団に慣れるためのプログラム、作業をするプログラムなどを用意しています。人と関わること、何かを作ること、参加すること,共に成し遂げることなどを通して,人は強くなれるのだと私たちは考えます。

※ 写真はマンガ「きょうの猫村さん」に興味を示す院長の愛猫・金時

考えるという「病」

パスカルは「人間は考える葦である」と言いました。 人間は他の動物のように強い身体能力を持たないけど、考える力が人間を強い生物たらしめているというような意味でしょう。

それだけ我々人間は考えるという習性を強く持った生き物です。 考えぬくことで、科学技術を発達させ、よりよい制度や医療技術、教育方法などを作り上げています。 また困ったことが起これば、解決策を作るために考えます。
しかし有害な「考える行為」もあるのではないでしょうか? 私たちは不安になるとその根本を突き止めようと考えます。 失敗すると、どうしてそうなったのか、自分の何が悪かったのか考えます。 うまくいかないと、誰のせいか、どうしてうまくいかないことばかり続くのか頭をひねって考えます。 時にはそうしたことで眠れなくなり、疲労してしまうこともあります。
果たしてこうした「考える」という営みは、私達にとって有益でしょうか?
私はそうは思えません。
考えても結局原因はわからないことが多く、わかっても解決につながらないことも多いのです。 また、考えれば考えるほど自分が恥ずかしくなったり、誰かが憎くてたまらなくなったり、ひとつもいいことがないからです。
人間が生きていく上で、不安はつきものであり、なくなることはありません。 不安がありながら開き直って生きていったほうが、実り多いのです。
私の敬愛する精神科医の帚木蓬生先生は、その著書「生きる力 森田正馬の15の提言」の中で、不安について考えることの無益さ、外界を見つめること、今必要な行為に没頭しすること、心理状態よりも外側を整えることなどの重要性を説いています。 日本には日本独自の心理療法・森田療法というものがあり、森田正馬先生はその創始者であります。 森田療法の考え方は、今を生きる我々にこそ必要な知恵を教えてくれます。

帚木蓬生著 「生きる力 森田正馬の15の提言」朝日新聞出版

※ 写真は、不自然な姿勢で考えている、院長の愛猫・金時

人薬 ひとぐすり

近年、薬の開発で副作用が少ない薬が発売されて、精神科治療も幅が広がってきました。
しかし一方で新しい薬がどれだけ増えても、精神疾患に苦しむ人が減ったかというと、そういうものではないようです。

なぜなのでしょう?

人はだれでも、不幸な出来事や病気を体験します。
その経験からたくさんのことを学んだり、人間として成長したり、同じ事が起こっても以前ほど悪くならいように賢くなります。

いろいろな考えはあるでしょうが、私はこの学んだり、成長したり、賢くなることは「薬の力」ではなく、「皆さんがそれぞれに持っている力」だと思うのです。

そもそも薬には固有の効果がありますから、不安を軽減したり、気分を落ち着かせることはできます。
それは私達の経験する病気とそれで起こってくることのほんの一部分なのです。

誤解の無いように、慢性的な病気には「再燃」(再発して悪くなること)を防止するための、その人にあった量の薬は必要です。

では、人が苦しみや病気から学んだり、成長したりするために、どんなことが助けになるのでしょう?

私はそれが「人薬(ひとぐすり)」だと考えます。
人薬という言葉は精神科医の斎藤環先生がよく使っている言葉です。

人間関係は面倒なものです。
しかし人との交流はいろいろなプラスの働きがあります。

1)人のやり方を見て技術(人間関係や話し方)を学ぶ
2)目標を見つける
3)人とのやり取りを通して自分を知る
4)自分を大切にする気持ちを養う
5)健康な意味での「欲」が出てくる(人のしていること、持っているものから)

ざっと以上のような事があるのではないでしょうか?

これこそが、人との交流が「人薬」とまで言えるゆえんなのです。

さらに人間関係というものは、親密な親子や夫婦ほど、愛情や引け目から無理を言ったり、喧嘩になることも多いものです。
そのため、かえってよく知らない人 ― 犬の散歩をしている近所の犬好きのおばさん、神社の掃除をしているおじさんなど、他人というものは意外とプレッシャーなく話しやすいものです。

当クリニックでも「人薬」での治療に力を入れていて、いくつかのグループ、デイケアでの活動があります。
興味のある方はご相談ください。

子供でも生きる力を 3

前回コラム「子供に生きる力を」 「子供に生きる力を2」

前回コラムに「食べること」を人一倍大切に考えていると書きました。

そのためデイケアでは屋上で作った土の匂いのする野菜を収穫から料理まで子供たちに体験させたいのです。コンビに弁当やカップラーメンだけを食べていたら本来の野菜の味などもわからないし、食材を作ってくれた人への感謝も生まれないことでしょう。

当初は屋上で収穫されたトマトやキュウリが」サラダにのっても、子供たちの中には「なんだか気持ち悪い」という子もいました。仕方ないと思いました。それでも屋上でとれたものを調理に出し続けました。

新クリニックになって1年ほどたった2011年春。スナップエンドウがたわわに実り、収穫しました。私もその日は診察の間にたまたま時間があり、子供たちにつきあいました。子供たちは収穫したスナップエンドウを湯がいて、いただきますを言うと、先を争うように食べ始めました。みんな「おいしい!おいしい!」と笑顔でした。

それまでクリニックの運営であれこれ頭を痛めてきた私でしたが、その苦労に意味が吹き込まれた思いがしました。

新クリニックでの1年半、なんとか進んでくることができたのも、私の思いを理解してくれる優秀なスタッフたち――臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士、看護師、事務――の力、そして院外の多くの方々のご協力の賜物にほかなりません。これからも一歩一歩、スタッフ一同子供たちとともに育ち、日々の取り組みを地道に続けてゆこうという思いでおります。

 

※ここで紹介した事例については、文意を損なわない配慮をしつつ、個人情報保護の視点から本人を特定できないように詳細を改変しています。