人薬 ひとぐすり

近年、薬の開発で副作用が少ない薬が発売されて、精神科治療も幅が広がってきました。
しかし一方で新しい薬がどれだけ増えても、精神疾患に苦しむ人が減ったかというと、そういうものではないようです。

なぜなのでしょう?

人はだれでも、不幸な出来事や病気を体験します。
その経験からたくさんのことを学んだり、人間として成長したり、同じ事が起こっても以前ほど悪くならいように賢くなります。

いろいろな考えはあるでしょうが、私はこの学んだり、成長したり、賢くなることは「薬の力」ではなく、「皆さんがそれぞれに持っている力」だと思うのです。

そもそも薬には固有の効果がありますから、不安を軽減したり、気分を落ち着かせることはできます。
それは私達の経験する病気とそれで起こってくることのほんの一部分なのです。

誤解の無いように、慢性的な病気には「再燃」(再発して悪くなること)を防止するための、その人にあった量の薬は必要です。

では、人が苦しみや病気から学んだり、成長したりするために、どんなことが助けになるのでしょう?

私はそれが「人薬(ひとぐすり)」だと考えます。
人薬という言葉は精神科医の斎藤環先生がよく使っている言葉です。

人間関係は面倒なものです。
しかし人との交流はいろいろなプラスの働きがあります。

1)人のやり方を見て技術(人間関係や話し方)を学ぶ
2)目標を見つける
3)人とのやり取りを通して自分を知る
4)自分を大切にする気持ちを養う
5)健康な意味での「欲」が出てくる(人のしていること、持っているものから)

ざっと以上のような事があるのではないでしょうか?

これこそが、人との交流が「人薬」とまで言えるゆえんなのです。

さらに人間関係というものは、親密な親子や夫婦ほど、愛情や引け目から無理を言ったり、喧嘩になることも多いものです。
そのため、かえってよく知らない人 ― 犬の散歩をしている近所の犬好きのおばさん、神社の掃除をしているおじさんなど、他人というものは意外とプレッシャーなく話しやすいものです。

当クリニックでも「人薬」での治療に力を入れていて、いくつかのグループ、デイケアでの活動があります。
興味のある方はご相談ください。