3月29日に内閣府の発表がありました。
「中高年の引きこもり数が61万3000人。4分3は男性。理由は『人間関係がうまくいかなかった』「病気」などに加えて最も多かったのが『退職』」
このニュースはみなさんの記憶に新しいと思います。
その実態や統計的なことや深刻な問題は、ニュースや内閣府にお任せし、今日は精神科医の目に映っているもの、出口のカギになりそうなことなどお話ししましょう。
一口に「ひきこもり」といっても、それは病気の診断名ではなく、問題とされる行動・症状です。
その背景には、社交不安障害、うつ病、自閉症スペクトラム症(発達障害)、統合失調症など様々な精神科疾患や発達特性が基礎疾患であることも少なくありません。
そういう場合は、そうした疾患の治療、支援がひきこもりの解消への第一歩です。
反対に特別な精神疾患がないまま引きこもった期間が長くなるにつれ、なんとなくやめられず続いてしまうというものもあります。最近のニュースで、ひきこもりをしている女性のなんと4分の1が主婦で、「ひきこもり女子会」というものが開催されるようになった聞きました。確かに、専業主婦は社会と接触が少なくなることも少なくありません。
では、ひきこもりが長引いて、やめられない場合、どうしたらいいのでしょう?
これが特効薬という方法は今の所ありません。
「ひきこもり引き出し業者」という強引に外に引きずり出す業者もいたようですが、半ば暴力に訴えたこうした手法は副作用も強く、医療者としては薦められるものではありません。また、社会的引きこもりは、医療の中でだけ解決できるものではないと考えています。
ではどうしたらいいのでしょう?
「ひきこもり女子会」が、参加者の居場所と安心や仲間を提供したように、どういう形でか対人関係を持つことが、そのカギであるようです。
この病院の「院長のコラム」で2016年6月4日に掲載したコラムで書いてある、「人薬(ひとぐすり)」ということをご参照ください。人は人と触れることで、自分を大切にできるようになり、失敗から立ち直ったり、目標を持ち、意欲が生まれるものなのです。↓
http://kcomnet-d.heteml.jp/user/hatakeyama-cl/column/
もちろん、引きこもっていた方が急に何かの集まりに出てうちとけたり、楽しめるようになるものではありません。そうした方の一つのステップとして、医療福祉の枠の中では「訪問看護」、「生活介護(デイケアのような活動)」、「就労支援(仕事へつくための訓練)」、それ以外にもNPOなどが主催する社会へ出ていくための支援がいくつもあります。
家族の対応法をカウンセリングや講演会などで学ぶことで、間接的な解決策を見出すこともありましょう。
さて。当事者である方にとって、まだまだその一歩が難しく、「今日、部屋でできることはないか?」と言われたら、私は精神医学の先達である西園昌久先生が講演で別の疾患の養生法としてお話になられた、以下のことはプラスになるのではないかと考えます。
一部抜粋・改変して掲載します。
1)家にいても歌を歌いましょう。本の音読やお経を唱えるのもいいでしょう
2)身なりをおしゃれにしましょう(もちろんお財布に無理のない範囲。部屋着やボサボサの髪ではなく、外出に困らない身なりをしましょう)
3)元気に歩きましょう(歩ける時間帯で結構です。顔を上げて胸を張りましょう)
4)人と挨拶をしましょう(コンビニ店員、家族、同じマンションの人など。できれば相手の顔を見て、笑顔で)
5)模擬旅行計画を立てましょう(地図を見て、行きたいところをさがし、時刻表を調べて、観光の予定を立て、旅行したつもりになってみましょう)
やれそうなことから、小さなことから、タネを蒔きませんか。